Top page

ガバナーの略歴
■ガバナーからのメッセージ
第1回 第2回 第3回 第4回
第5回 第6回 第7回 第8回
第9回 第10回 第11回 第12回
     

05-06年度ガバナー月信
05-06年度地区組織一覧
05-06年度地区目標
05-06年度ガバナー公式訪問日程
Home
 
ガバナーからのメッセージ  <第7回>

「ロータリーと否定の論理」

 新年明けましておめでとうございます。
 会長幹事の皆さんには、お元気で新春を迎えられたこととお喜び申し上げます。松飾りもとれ、もうすでに新年の決意新たに活動を開始されていることでしょう。我々の年度もいよいよ下半期に入りました。人生にとっても組織にとっても大敵は「慣れる」と云うことです。「慣れ」から身を守る唯一の方法は、初心を忘れないことであります。どうか会長幹事さん、就任された際の謙虚で緊張したみずみずしい気持ちを忘れずに、当初の活動計画をチェックして、年度の仕上げにむけて一層の努力をお願いいたします。

 ロータリーとは何かを考える上でもっとも大切なことは、ロータリーの精神とは何かということです。選ばれて初めて入会した人や、手続要覧に初めて出会ったロータリアンは、その難しい理屈に圧倒され、しばしば途方にくれるでしょう。このようなロータリーを管理する技術的仕組みは、もちろん重要ではありますが、第二義的なことに過ぎません。私たちはその組織規定に迷わされること無く、技術の背後にあるロータリーの精神を見抜かなければなりません。いくらロータリーの奉仕プロジェクトを学んでも、その精神がわからなければ、ロータリーがわかったとは到底いえないでしょう。ロータリーの精神とは、一言でいえば倫理であります。ロータリーは職業人の集まりです。それゆえロータリーとは何かという問いは、職業倫理とは何かという問いに置き換えられます。法学は正義を探求し、芸術は美を探究する、科学は真理を探究するという例に例えるなら、ロータリーとは職業倫理を探求するということになります。だからロータリーに入会したものは、倫理を求め、職業奉仕を実現する精神を身につけなければならないのです。この原点を忘れたものはロータリーについて語る資格はありません。

 では職業奉仕を実現する精神はどこで身につけたらいいのでしょうか。それはロータリーの例会です。また奉仕の海を航海する者、何を一体目印にしたらいいのでしょうか。それはロータリーの開発した良質な理念なのです。理念にはロータリーの綱領、ロータリー標語、4つのテスト、ロータリー倫理訓などがあります。ロータリーのバイブルである決議23-34によると、これらの奉仕の理念を団体で学ぶこととあります。次いで各会員から自分の業界に無い知恵を学びます。つまりロータリーの例会は会員同士が切磋琢磨してロータリーの理念と異業種の知恵を学ぶ教育的な場なのです。
 そのためにロータリーは比類なき、特別の制度を用意しています。ロータリーは無数の歯車から成り立っています。その中で特に重要な二枚の歯車があります。それが「職業分類制度」と「例会出席」です。ロータリーはこの二つを失うとロータリーという名前は残ってももはや異質の団体となります。「職業分類制度」の原則は一業一会員制です。職種が異なるとそこから発想する人生観がそれぞれ違います。自分の業界に無い異業種の智恵を毎回の「例会出席」を通じて学び自分を高めていく、これが奉仕の心の育成にあたります。職業が違うということは互いに『異質』であります。またロータリアンは企業の管理者としてレベルは同じです。レベルが同じだと仲良くなれます。レベルが同じということは互いに『等質』です。『異質』と『等質』が出会うと爆発的自己改善効果が起こります。ロータリーで漠然と切磋琢磨とか自己改善とか言いますが、これは『異質』と『等質』の出会いのことなのです。ロータリーは異業種の会員の知恵を例会の親睦を通して学ぶことなのです。
 近年、悲しむべきことはロータリーを隆盛に導いたこの比類なき「職業分類制度の原則」と例会への「規則的出席」がないがしろにされ、換骨奪胎、ロータリーは人を作る運動から、人道的国際ボランティア団体に移行してしまったことです。しかし奉仕の新世紀を迎えてRIは職業奉仕の再構築を提唱し、原点回帰の姿勢が見えたことは日本のロータリアンにとって朗報です。

 ここでもう少し例会での『切磋琢磨』という表現を認識論的に分析してみましょう。ここに否定の論理の存在を見ることが出来ます。
 ロータリーはその発展過程において〈他人の立場に立って〉という自己研鑽の原則を確立しました。しかし〈他人の立場に立って〉という原則は、日常の例会では他の会員に対する妥協的対応のみ見られて、相手の気持ちにひたすら迎合することと誤解されています。これでは『切磋琢磨』とはほど遠い次元です。
 本来の〈相手の立場に立って〉ということは、例会場で自分の心の中にもう一人の自分をおいて、現在の自分を否定することです。もう一人の自分が他の会員の言動を見習って、自己否定(反省)することによってロータリアンの境地は進化します。

 このことを明確に解明したのは、青森ロータリークラブの渡辺泰助氏でした。氏の会長時代の会報(1968年1月4日)の〈他人の立場に立って考える〉という小文を引用します。『奉仕第一、自己第二という標語があります。この言葉もよくロータリーを表していましょう。しかし私は〈他人の立場に立って考える〉ことが、ロータリアンの基本とされるとき、それに最も深い意味を感じます。〈他人の立場に立って考える〉ということは、人間の自覚という作用の構造を実に良くあらわしていると思うのです。考えるのはあくまで自分であって他人ではありません。ですから〈他人の立場に立って考える〉ということは、自分の中に、自分でないもうひとりの自分‥‥非我といっておきましょう‥‥を持ち、その立場で考えるということになりましょう。自分で自分の目を見ることは出来ません。いったん、鏡か何かに映して見なければならないでしょう。これと同じように、自分で自分を直接知ることは出来ません。非我の立場に立って自分を見て、初めて正しく自分を知りえます。つまり、いったん自分から離れることが必要です。自分についていてばかりいては駄目なのです。非我の立場というものは広いものです。自分を深いところから支えている立場です。
 自分‥‥我は、空間的にも時間的にも限られたものです。これに対して非我は無限に連なるものです。ですから自分の中に非我を持ち、その立場に立つことによって、限られた身の我が、限られたものではなくなるのです。身を捨ててこそ浮かぶ瀬もあれということでしょう。我だけで持ちこたえられる時間は知れたものです。我は非我によって歴史に耐えられるものなのです。〈他人の立場に立って考える〉という思想はロータリーに固有のものではありません。もっと普遍的なものです。非我の立場に立ちがたい、打算の世界にこれを適用しようとするところにロータリーの本領があると思うのです』
 青森RCより40年前の会報を送ってもらいました。渡辺氏はロータリーの例会における否定の論理の存在を明快に解明されました。これは誰もが為しえなかったことで 私は氏をロータリーの恩人と呼んでおります。

 このようにしてロータリー思想の根底には、個々のロータリアンの認識の世界において、奇しくも正反合、直感・反省・自覚という弁証法が作用していることを知ります。〈相手の立場にたって考える〉ということは、相手に迎合することではなくして、ロータリアンがその心の中に客観的自己を立てるに当たって、相手側の行動を媒体とすることを意味します。これがあればこそ個々のロータリアンがその境地の向上を果たすことが出来るとともに、例会出席およびロータリーの教育的機能の実態がわかるのであります。否定の否定は「重要な発展法則」であります。
 ロータリー運動の目的は個々の会員の自己研鑽です。職業人として更に自分を高めるために他の業界の知恵を例会で謙虚に学ぶのです。そのために漠然と例会に出席するのではなく、ロータリーの例会で自分を磨くのだという自己研鑽の目的意識を持って出席することが必要です。自己研鑽の目的意識を持つということは、〈他人の立場に立って考える〉ということなのです。

 「ロータリーとは何か」、「ロータリアンとは何か」がいつも問われますが、これは簡単に答えられる問題ではありません。ロータリーは理解しやすいと同時に定義しがたいものです。ロータリーとは、対立する政治・哲学、宗教、信条の違い、文化的価値の違いが唱える「否定」を潔しとせず、これを超越することによって国際親善と理解を妨げてきた障壁の全てを乗り越えていく生きかたであります。ロータリーはこれらのイデオロギーや信条の違いに関する究極の問題に対して対決するのではなく、寛容の精神でこれらが持つ価値を止揚(他人の立場に立って考える=否定の論理)して、人間性を高める生きかたです。

 このような考え方から、ロータリーにあっては、例会における親睦活動のうちに各自の精神的境地が接触し、自己否定の論理を媒体として各自の精神的境地が高まり、支配ではなく寛容の精神によって社会集団活動が目的を達成するという理論構造を持っています。まして国際紛争を武力行使によって解決することを認めないのです。
 『ロータリー理解推進月間』にあたり例会における自己研鑽・切磋琢磨の必要条件を少し掘り下げて考えてみました。
 今(11月10日)、この原稿を書いている時テレビで鳥インフルエンザの対策がしきりに報道されています。どうか会長幹事の皆さんくれぐれも風邪にはお気をつけください。

参考文献 井尻 正二(弁証法をどう学ぶか)


PAGE TOP | Home